正しいマントラ・チャンティング

  • 2011.05.24 Tuesday
  • 22:42
 近年、マントラ・チャンティング、つまり「マントラを詠唱すること」が、ヨーガの指導者や実践者の間に知られてきました。しかし、チャンティングには、ある程度の知識が必要です。マントラはサンスクリット(梵語)の詩句です。したがって、サンスクリットの正しい発音、少なくともアルファベットやひとつひとつの音の違いは知っておく必要があります。実際に正確に発音できるまでには、少し時間がかかりますが、音の発声部位、舌の位置、発音時の口の形などは、知っている必要があると思います。

カタカナではサンスクリットを表記する方法がまだ確立されていません。カタカナ表記法を考えるよりは、ローマ字表記法を覚える方が早いでしょう。マントラを間違ったカタカナ表記で覚えている人が多くみられます。ローマ字であればITRANSという表記法がすでに確立されています。日本語は子音と母音を分けて表記しないため、表記法を考えるのは難しいですし、できてもそれを見ながら詠うのは難しいですね。マントラはやはりその音の生み出す波動も大事なので、正しい発音が重要です。発音は気にしなくてよいという人もいます。ですが、他の原語と同様、より近い発音を行うよう練習することが必要です。

多少の違いで意味が異なる単語も多くあります。例えば、 medaaमेदा)、medaमेद)、medhaa(मेधा)、meDha(मेढ)、medha(मेध)です。カタカナで書けば、メーダかメーダーです。ですが、 メーダー(medaa मेदा)は「生姜に似た根っこ」、メーダ(meda मेद)は「脂肪」、メーダー(medhaa मेधा)は「才能、知性、知恵」など、メーダ(medha मेध)は「樹液、エッセンス、骨髄」など、メーダ(meDha  मेढ)は「エレファント・キーパー」となります。
 
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★マントラ・チャンティング [BOOK-CD] 
皆さんにマントラ・チャンティングを紹介するために [BOOK-CD]をこれまで2点制作し始めました。2009年にパート1、2102年にパート2を発売しました。ローマ字表記、デーヴァナーガリー文字表記、意味、解説などを記載したテキスト付きです
★マントラ・チャンティング講座
個人レッスン、グループレッスンなど行っています。基本から学びます。
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ヴェーダ・マントラ は、3音階(高音、中音、低音)と特別な高音で詠唱されます。ひとつひとつのマントラには、それを認知した見者(rshi)の名前、神格(devataa)、韻律(chhandas)が聖典には明記されています。音階(svara)も書かれています。神格により祭祀での使用目的は異なります。正しい発音と、正しい音階を幼少期に身に付けた専門家により詠唱されます。

ヴェーダ・マントラの知識はヴェーダの伝統の継承者や専門家から学ぶ必要があります。市販のテキストには間違いも見受けられます。マントラは、主に、パンディタと呼ばれるヴェーダの専門家により、ヴェーダ祭祀などで使用されます。
 
マントラを用いた祭祀は”ヤジニャ(ヤギャ)”と呼ばれ、ブラフマナ(バラモン/ブラーミン)により継承されてきたものです。日本の相撲と同様、女性によって行われることはほとんどないようです。もちろん、祭祀以外におて、女性がマントラを詠唱することはあります。ただ一般には、女性は、ストートラ、バジャン、キールタンなどの賛歌をチャンティングすることが多いようです。これらは、マントラと異なりより音楽的な要素が強いものです。ちなみに、インド古典音楽のドゥルパドのルーツはサーマ・ヴェーダです。
 
ヨーガ教室で歌われているものは、ヴェーダ・マントラとは異なるものが多いですね。ヴェーダ・マントラとそれ以外を区別する必要があります。よく知られたヴェーダ・マントラには、ガーヤトリー、ムルテュンジャヤ、ガナパティ、シャーンティ・パータなどがあります。
 
現在では、これらの区別があいまいです。そうでないものを、ヴェーダ・マントラと思っている人も多いようです。ヴェーダ・マントラは主にヴェーダ聖典の中の本集(サムヒター)の詩節です。そのためヴェーダ・マントラ、ヴェーディック・マントラと呼ばれます。このマントラは儀式の中で使用されるもので、一般的に、音楽として歌われることはありません。もっとも、近年は歌手や西洋人が音楽的にアレンジして歌っているものも多くなってきています。YOTUBEなどにアップさされているものにはそういうものが多く見うけられます。
 
ヴェーダ・マントラの詠唱の伝統は、2009年9月ユネスコ無形文化遺産に正式に登録されました(→ユネスコサイト)。ヴェーダ・マントラはパンディタ(専門家)により、その祭祀に必要なマントラを規定通り、また、おごそかにチャティングされます。したがって、誰もが詠唱でき学べるものではなく、幼少期から特別な教育を受け初めて可能になるものです。
 
◆  ◆
 
ヴェーダ・マントラは、古代から全く同じ形でチャンティングされている。いくつかの学派(shaakhaa)があり、同じ詩節であっても、音階や発音に違いがあります。ヴェーダ・マントラでなければ、音階などは、地域や教える人により異なっています。学んだ先生により異なります。
 
歌われている賛歌のなかには、ヒンディーや地元の言葉で作られたものもあり、サンスクリットとは発音などが異なります。ヒンディー賛歌をサンスクリットだと思っている人もあるようです。インド人でもサンスクリットとの区別を知らない人がいるくらいです。例えばサンスクリットでは、ラーマ(raama)ですが、ヒンディーではラーム(raam)となります。
 
またマントラは一般の音楽のように歌うことはありません。楽器の演奏とともに詠唱されることもありません。ただ、タンブーラなどの通奏低音(ドローン)をバックに流す場合が稀にあります。儀式の中ではそのようなことはありません・

サーマヴェーダでは、マントラは7音階で詠われます。サーマ・ヴェーダはリグ・ヴェーダのマントラを音楽的に詠唱するもので、前述したように、インド古典音楽、仏教声明のルーツです。しかし、厳格に音階を守りルールに従いチャンティングされます。
 
                   ◆  ◆
 
ヴェーダ・マントラは、聞いていて、人間の情緒や感情を刺激するものではないよう思います。最も精妙な意識を刺激するものです。内容は自然の賛歌です。自然界の様々な現象や働きを神格化し賛美したものです。自然を支配する力をデーヴァター(神性)と言います。バジャンやキールタンは、人格化した神々(デーヴァ、デーヴィー)の名前を唱えたり、讃美歌を歌ったりします。神々への献身の情を表現しているようにも思えます。実際に聞くとそのように感情が高揚した利なだめられたりします。繰り返し歌うことで、人の感情や情緒が刺激されます。キールタンはまさに繰り返しチャンティングするものであり、高揚したムードのなかで陶酔する人が多く見受けられます。

バガヴァド・ギーターやラーマーヤナなどは、韻律を持つ賛歌となっていますが、そこで説かれているヴェーダの哲学的な内容に意味があります。それらはヴェーダの哲学が神話や物語として表現されたものです。

情緒的な癒しや気分の向上を求めている人たちは、キールタンやバジャンなどを好みます。確かにある種のハイなムードに浸ることができるからです。一般的に、瞑想を日々行い静寂の意識(サマーディ)を経験している人々はヴェーダのマントラを聞くことを好みます。マントラが静寂の意識を刺激するからです。もちろん完全にそうだということではありません。知的なレベルでヴェーダを捉えたい人は、チャンティングよりも、ウパニシャッドやバガヴァド・ギーターなどの意味を知的に理解したいと思います。ただチャンティングしたり聞くことだけでも心地よさはあります。

 
◆  ◆
 
【サンスクリット・チャンティングの種類】
 
 チャンティングにはさまざまなものがあります。いずれにしてもこれらは祈りや賛歌です。自己を超えた大いなる存在、自然の力、聖なるものへの賞賛、懇願、瞑想、お礼、願いなどの祈りです。祈ると言うことは、感謝することと同じように人間の根本的な思いや行為でしょう。自分の好みのスタイルで、言葉で自然な形で行うとよいでしょう。インドにはさまざまな形で継承されてきた祈りのスタイルがあります。以下の通りです。

 
1.マントラ(mantrah): マントラは「ヴェーダ聖典の詩節」を指す。ヴェーダ・マントラ(vedika mantra)と言うこともできる。動詞語根は、マン(man)「思考する」に接尾辞トラ(tra)が付いたもので、「思考の道具」などの意味となる。通常マントラはヴェーダ聖典の中の詩節を指す。したがって、厳格にいえば、ヴェーダ聖典にないものはマントラとは言わない。ヴェーダの祭祀でチャンティングされる聖句である。それが本来の意味のマントラ・チャンティングということだ。ヴェーダ聖典という場合、リグ・ヴェーダ、ヤジュル・ヴェーダ、サーマ・ヴェーダ、アタルヴァ・ヴェーダの四つのヴェーダ聖典を指す。ヴェーダ聖典は、サムヒター、ウパニシャド、アーラニャカ、ブラーフマナからなる。通常、祭祀ではサムヒターの詩節が使用される。ヴェーダは、人が創造したものではなくリシと呼ばれる聖者が深い瞑想でt認知したものでありシルティ(shruti)、つまり天啓聖典と言われる。これ以外はスムルティ(smrti)と言われる。スムルティには「想起、回想、記憶」などの意味があるが、ヴェーダを理解するために聖者が創作した伝承聖典ものである。後述する、プラーナ、イティハーサは後述の2.以降はスムルティと言える。
2.キールタナ(kiirtanam): 
ヒンディでは、キールタン(kiirtan)またはサンキールタン(sankiirtan)という。サンスクリットの動詞語根は、キールトゥ(kiirt)であり、「賞賛する、繰り返す」などの意味がある。「呼び、応える形のチャンティング(詠唱)」である。一人のリーダーが歌い、それに続いて参加者が歌うという形で、同じフレーズ(神様を称える詩節や言葉や神様の名前自体)を「繰り返し歌う」ものである。ハーモニウムなどの楽器の伴奏とともに繰り返し歌う。歌のテンポはどんどん早くなり終わる。したがって、キールタンは賛歌をチャンティングするスタイルを含めた言葉だ。北インドのスタイルである。
3.バジャナ(bhajanam): 
ヒンディでは、バジャン(bhajan)という。神々の「賛歌」であり、基本的にはキールタナと同じだ。動詞語根は、バジ(bhaj)であり、「参加する、献身する、崇拝する」などの意味がある。通常、グループで行われ一人が歌い、終わるとほかの誰かが歌う。思い思いに交代で延々と歌われていく。バジャナもまたキールタナと同様、チャンティングのスタイルを含めた言葉である。
 ストートラは神々の「賛歌」である。 「賞賛、賛辞、賛歌」などの意味がある言葉だ。動詞語根はストゥ(stu)であり、「讃える、賞賛する」と言う意味がある。通常、32音節からなっている。
5.ストゥティ(stutih):
ストゥティは神々の「賛歌」である。言葉の意味は、「賛辞、推賞、賛歌」などである。北インドでの呼び方である。動詞語根は、ストーットラと同じ、ストゥ(stu)であり「賞賛する、賛美する、賛辞を述べる」などの意味があり、ストーットラと同様である。
6.スタヴァナ(stavanam):
スタヴァナは、 ストゥティは神々の「賛歌」である。ストゥティと同じである。動詞語根は、ストートラ、ストゥティと同じ、ストゥ(stu)である。
7.プラールタナー(praarthanaa):
プラールタナーには、「依頼、懇願、請願」などの意味がある。神へ願いを叶えるように祈る詩節である。プージャー(儀式)などの際に、主神として礼拝される対象の神に関する祈りを最初に行う。その際にチャンティングされる。動詞語根は、プラールタ(praartha)で、「懇願する、依頼する」などの意味がある。ヴェーダのマントラも含まれる。
8.スマラナ(smaraNam):
スマラナには、「記憶、回想、神の名前の詠唱」などの意味がある。プラールタナーと似ている。神やグルのイメージを思い起こすような内容の賛歌である。神とつながるための祈りである。儀式の最初にチャンティングされる。
9.デャーナ・シローカ(dhyaana shloka):
デャーナは「瞑想」という意味だ。スマラナと同じようなもで、儀式の最初にチャンディングされ、懇願する対象となる主神のイメージをしっかりと心に浮かべる。神とつながるための祈りである。そのために強く神を瞑想する。
10.シローカ(shlokah):
シュローカは神々の「賛歌」である。「賛歌、韻文、格言、詩節」などの意味がある。動詞のシュル(shru)から由来しており、シュルには「聞く」という意味がある。ヴェーダ・マントラの韻律から発展した詩節である。
 
11.イティハーサ(itihaasah):
『バガヴァッド・ギーター』や『ラーマーヤナ』といった叙事詩をイティハーサと呼ぶ。これらは悟りを得るための智慧、悟りを得た人生とはどのようなものかを説く教えを物語で表わしている。ひとつひとつの詩節は32音節または44音節からなる。いくつかのよく知られたメロディでチャンティングされている。
12.プラーナ(puraaNam):
神話である。自然の摂理を擬人化して神として表わしている。より真理を分かりやすい形で教える。プラーナから引用した詩節がチャンティングされることも多い。
 
13.デーヴァター・ナーマ(devataa naama):
デーヴァター(神性)+ナーマ(名前)、つまり神様の名前である。神を讃え、神のひ護を得るため、また神に懇願するために、神様の名前を繰り返し唱えることもよく行われる。
14.ジャパ(japa):
ジャパ(japam)は小声で口の中で繰り返し、神の名前や賛歌を唱える礼拝行為である。ジャパの意味はまさに「小声でとなること、祈願すること、神名の繰り返し、ヴェーダのチャンティング」である。動詞語根はジャプ(jap)で、「つぶやく、心の中で唱える」といった意味がある。
 
15.パーラヤナ(paarayanam):
「読了」という意味。マントラ(ヴェーダ聖典)や聖典を読誦することである。
注:一例に示した音源は、マントラ、イティハーサなど以外は、一部、アレンジされたものもあるので、あくまで参考としてとらえていただきたい。またそれぞれの区分は人や地域によって同じものを指す場合も多い。


 
以上、チャンティング(詠唱)にさまざまな分野や形式があります呼び方の違いだけのものもあれば、これらは、チャンティングのスタイルを表わすもの、その特徴を指すもの、目的を表わすもの、聖典の名前などです。これらは神々の賛歌です。マントラのように厳格な音階はありません。
 
中には、ヴェーダ・マントラを、音階と関係なく音楽的に歌っている人もいます。現在ではマントラや聖句をポピュラーソングのように歌っているようです。今チャンティングしているのは何なのかを指導者から学び知っておく必要がありますね。伝統的には、例えばガーヤトリー・マントラは声に出してはいけないと教えられます。
 
重要なのは、神格とは何かということでです。この理解の違いにより、チャンティングの意味合いは異なってきます。ヴェーダのマントラにおいては、神格は、自然現象や自然である。あらゆるものを神聖なるものとみ、それらを神(デーヴァター)と呼びます。プラーナの賛歌や詩節では、ヴェーダの神格は人格化されデーヴァやデーヴィーとして擬人化されています。
◆  ◆
 
【ヴェーダ・マントラ】
 
前述したように、ヴェーダ・マントラは、規定された特定の韻律からなる、賛歌、詩節である。古代のシャーマンのようなリシと呼ばれる高次意識の聖者が天から啓示を受けた、あるいは認知したものとされます。人の創作ではないものと言われます。一つの神様に関するマントラの集まりを、スークタと言います。スークタの集まりをアヌヴァーカ、アヌヴァーカの集まりをマンダラと言います。そのマンダラの集合を、サムヒター(本集)といいます。ヴェーダは4種類あります。リグ・ヴェーダ、ヤジュル・ヴェーダ、サーマ・ヴェーダ、アタルヴァ・ヴェーダです。それぞれのヴェーダにはいくつかの流派(学派)があります。
 
各ヴェーダは4つの部分からなっています。サムヒター(本集)、ブラーフマナ(祭事書)、アーラニャカ(森林書)、ウパニシャド(奥義書)です。主にサムヒターに含まれるものがマントラと言われるものです。4つのヴェーダのマントラを合わせると2万以上の数になります。

これらのヴェーダのマントラの認知者であるリシは400人以上が知られています。有名なガーヤトリー・マントラのリシは、ヴィシヴァーミトラ家のガーティナという聖者です。
 
ヴェーダは大きく分けると、祭事部(karma-kaanda)と知識部(jnaana-kaanda)に分けられます。前者は祭祀を説く部分で、サムヒターとブラーフマナです。後者は哲学的な側面であるウパニシャッドやアーラニャカなどです。それぞれカルマ・ミーマームサー哲学とヴェーダーンタ哲学へと発展していきました。

 4つのヴェーダ・サムヒターは紀元前1200年頃〜同800年ごろの間に編纂されたとされています。それ以前は、文字としては存在せず人の記憶にあったといいます。ヴェーダを編纂した人はヴャーサです。ブラフマナ、アーラニャカ、ウパニシャドはサムヒター以降に順次編纂されたものです。したがって、ヴェーダ、中でもリグヴェーダのマントラが最も古いものとなります。
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